[詩]僕は精神が好きだ(大杉栄)

僕は精神が好きだ。しかしその精神が理論化されるとたいがいはいやになる。


理論化という行程の間に、多くは社会的現実との調和、事大的妥協があるからだ。まやかしがあるからだ。


精神そのままの思想はまれだ。精神そのままの行為はなおさらまれだ。



この意味から僕は文壇諸君のぼんやりした民本主義人道主義が好きだ。


少なくともかわいい。しかし法律学者や政治学者の民本呼ばわりや人道呼ばわりは大嫌いだ。聞いただけでも虫ずが走る。


社会主義も大嫌いだ。無政府主義もどうかすると少々いやになる。


僕の一番好きなのは人間の盲目的行為だ。精神そのままの爆発だ。


思想に自由あれ。しかしまた行為にも自由あれ。そしてさらにはまた動機にも自由あれ。


(1918年2月)